始まりと終わりの途中

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 天才。それしか言葉が浮かばない程に高等な研究を、彼女はしていた。  このまま研究が進めば、確かに世界を崩壊させるだけの魔術が出来てしまうだろう。  青年は研究の中止を提案するが、少女は聞く耳を持たない。青年を研究所から追い出し、朝も夜もなく研究を続けた。  中止の提案を何度も繰り返すが、彼女は「絶対的な力の存在が世界に平和をもたらす」と語り、それを盲目的に信じていた。その力がやがて全てを滅ぼすとも知らずに。  ──少女の研究所には、彼女の他に誰も居なかった。 青年が彼女の経歴を調べてみると、家族はかつての国王による過剰な粛清で殺されたのだという。  そして幼かった彼女は国に引き取られ、"恐怖による支配"という歪んだ教育を受けたのだ。そこに自由はなかった。  洗脳に等しい。それが彼女のあの理論を作り上げ、絶対的なものとして心に根付かせていた。  彼女にとっては、国こそが親代わりなのだ。親に認められたくて、褒めてほしくてこの研究を続けている、子供なのだ。  可哀想。救われてほしい。その考えが余計に苦しみを掻き立てると知りながら、青年はそう思わずにはいられなかった。  苦悩の末、青年は少女に全てを告げた。自分が過去を変える為に未来から来たこと。この研究で世界は滅ぶということ。  しかし、それでも少女は研究を止めない。「私にはもうこれしか残されていない」と震えながら。 自身に芽生えた罪の意識を噛み殺しながら。
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