ツインテールとシュシュ(3)

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 バンザイが連呼される中、彼は階段の死角を利用しこっそり隣の車両に乗り込んだらしい。もっとも打ち上げへ向かう集団から忽然と姿を消せばちょっとした騒ぎにはなるだろう。わたしと同様、彼もクラスに大きく貢献した1人なのだから。 『藤田君どこ行ったかしらない?』。エリナからメールを受けたのは電車が東京に着く頃だった。彼女は、なんらかのねらいがあって藤田くんがわたしを追った可能性に気づいたのかもしれない。実際、つい先ほどまで彼は目の前にいた。用件を口にする直前、彼はケータイをちょこっといじった。電源を切ったのだ。 「好きになっちゃった。須藤さんのこと」  告られたのである。  文化祭2日分の代休を経ても、延々と続く「どうしよう」のループからわたしは抜け出せずにいた。彼のメアドの記されたメモが定期入れに収まっている。返事はいつでもいいとのことだった。 ***  藤田くんの告白に限らず、文化祭という一大イベントは思わぬ余波をもたらした。クラスの喫茶店は大成功に終わったが、野球部のほうではちょっとしたいざこざが起こっていたらしい。休み明けの水曜、杉本くんはげんなりした顔でそのときの模様を語る。 「言いがかりだよ完全に。はじめはさ、注文取りに来るのが遅いって話だったの。こっちは20分も待たされてんだぞって。でさ、その後もコーヒーが濃すぎるだの店員の態度が悪いだのイチャモンつけてきたわけで」  相手は二十代と見られる2人組の男性客だった。生徒の身内なのか卒業生なのか、はたまた学校と無関係の一般人なのかはわからない。不良っぽい感じではなかったという。いずれにしても、イケメンを名乗る連中をからかってやろうという意図だったに違いない。 「ちゃんと謝ったんでしょ?」とわたしは聞いた。 「そりゃ1年坊主が部に泥塗るわけにいかないしな。モウシワケゴザイマセンって何度も言ってやったよ。姐さんからスパルタで接客指導されたし」
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