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ところがその客と見られる人物が、さらに学校宛にメールで抗議文を寄せてきたのだ。前出のクレームに加え、『高校の文化祭で風俗まがいの店を出すのはいかがなものか』と。学校側は不快な思いをさせたことを謝罪した上で、『早急に調査し適切に対処する』と回答した。そのために、わたし(と藤田くん)が打ち上げ組から離脱した直後、杉本くんは急遽学校へ戻るはめになった。職員室では部長と姐さんことマネージャーが教師に事情を聞かれていて、彼は当事者としてそこに加わったのである。
もっとも2日間の休み中にこの件は解決したという話だった。学校側は模擬店の運営や野球部員の対応に問題はなかったと見ていて、当然杉本くんにもお咎めはなかった。ウチの顧問弁護士が黙らせてくれたから心配するな、と白石先生には言われたらしい。
なお余談だが、杉本くんは当初からマスター役を務める予定ではなかったという。イケメン喫茶とは姐さんのアイデアだが、もともとは部員が男性アイドルなどのお面を着けて接客する構想だった。ところがこの方向で準備を進めていたところ、実行委から物言いが付いた。いわく、肖像権の侵害に当たるおそれがあると。そこで急遽生身のイケメンが接客する方針に変更したわけだが、いかんせんサッカー部などと違い野球部は顔面偏差値があまりよろしくない。部内で『イケメンと呼べなくもない者』となると、該当者は相当に限られた。その栄えある筆頭が杉本くんだった。おかげで当日の負担はほぼ彼に集中したのである。
野球部で暴力事件。
翌日、朝のHRでそれは知らされた。前日放課後のことで、詳細はまだはっきりしないという。ただ、先生が周知するからには部内の些細な騒動では済まなかったのかもしれない。教室には杉本くんと、同じく野球部員の田中くんの姿がない。ヒアリング中とのことで、田中くんのほうは1時間目終了後教室にやってきた。彼の話はこうだった。杉本と2年生部員数名によるけんかで、先に手を出したのは杉本らしい。一部始終を見ていたわけではないので原因はわからない。ちなみに、杉本くんは練習前のミーティングの際、先の文化祭での騒動を部員一同に詫びたという。
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