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先に手を出したのは杉本くん……
理由を知りたかった。それも彼の口から直接聞きたいと思った。部に泥を塗るわけにいかないと話していた彼が、なぜそんなことをしたのか。しかも先輩を相手に。しかしヒアリングが長引いているためか、彼はいつまで経っても教室に姿を見せなかった。放課後、わたしはエリナと一緒に昇降口で待ち伏せた。会えるまで帰るつもりはなかった。
その結果はというと、会うだけなら叶った。17時を20分ほど過ぎた頃、杉本くんは昇降口前の階段を下りてきた。1人ではなかった。白いブラウスにレースのスカート、その上にクリーム色のジャケットを着けた瑞希さんは、二十代なかばでありながら生徒の保護者として違和感がない。わたしたちの姿を認めると、少し困ったふうに彼女は笑んだ。
彼のほうはより困惑したに違いない。が、遠慮などしていられなかった。
「大丈夫?」
真っ先にわたしは聞いた。彼の顔に痣が残っていたからだ。しかし彼は答えない。ふてくされたような表情で目を合わせてもくれない。
「ねえなんで?」短く、今度はエリナが事情を問い詰める。
「なんでって、そーゆーとこだからだよ」杉本くんは伏し目がちながらわたしを向いた。「前に言ったっしょ。いつ暴力事件が起きてもおかしくないって。現実になったんだよ」
「ごめんねっ」慌てたように瑞希さんが口を開く。「コイツいままともじゃないから」
ほんと心配かけてごめん。気まずそうに言いながら、彼女は杉本くんを促す。そそくさとこの場を去ろうとする2人を前に、わたしもまともでいられなくなってきた。
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