ツインテールとシュシュ(3)

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『姐さんから全部聞いた。エリナにも伝えといた。早く学校来れるといいね』  あたし野球部のマネージャーでミズシマってゆうんだけど。廊下で突然呼び止めてきた彼女はそう名乗った。じかに顔を見るのははじめてだが、意外にも小動物のようで愛らしい。髪は薄く茶色がかったショートで、上下に広がった睫毛がおしゃれもそこそここなす女の子であることを思わせた。わたしを緊張させないためにか彼女は微笑み、丁寧に名刺を差し出してきた。あいつから話聞いてる? その、野球部であったことなんだけど……。  彼女のねらいが見えてきたわたしはいいえと答えた。カレずっと黙り込んでて。  やっぱりと水嶋百合子さんという人は言った。だったらあなたには話しておきたいの。  わたしたちは人目を避けるように自販機コーナーへ移動する。須藤由佳と言います。歩きながらわたしが名乗ると、付き合ってどんくらい? と彼女が尋ねてきた。1か月くらいです。わたし中学別だったんであの人のことまだよく知らなくて……。  告白はどっちから? と口にして、ごめんカンケーないねと彼女は取り消した。わたしは内心ほっとしながら彼女が買った缶のミルクティーをいただきますと受け取る。 「がんばってたよ」水嶋さんはベンチに腰を下ろして言った。「あいつ中学んときいったん野球やめたからね。ブランクある分人一倍」 「そうみたいですね」半人分ほどの間を置いてわたしも座った。「文化祭のほうもがんばってたんでしょう? イケメン喫茶。わたしもちょっと覗いてみたかったんですけど」 「そのことなんだけど聞いてる? クレーマーが現れたって話」  やはりそれが発端かと思いながら、「聞いてます」とわたしはうなずく。
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