魔女ザルムホーファーの逃亡

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「彼はあの「神の種」を始末する気よ」 「あんたの大事なモノはなくなっちゃうわねぇ」 化粧で厚塗りした女達が嫌味たらしく少年を嘲笑う まだ続くであろう女達の罵詈雑言を無視して少年は駆け出した 男がそんな事をするかどうかは、少年には解らなかった けれど男の取り巻きの女達が言った事が本当ならば、少年はここで止まる訳にはいかなかった 少年は男を愛していた それと同じくらい二つの命――双子を愛していた もし、本当に男が双子を疎んでいるのならば、双子はすぐにその短い人生を散らせてしまうだろう 男には幸せになって欲しかった 双子には生きて欲しかった 少年には――この道しかなかったのだ (・・・ごめんなさい・・・) 口内で呟いた謝罪が誰に宛てたモノなのか、もはや少年には解らなかった 持てる力を全て籠めて、双子を容れたガラスケースを殴り付けた 砕けた硝子の破片が少年の柔らかな指や腕を傷付けるが、少年はそれも無視した それぞれ金と黒の髪を持った双子を腕に抱き、黒い布で体を覆った 時間は深夜 明日になれば男はこの研究所に戻ってくるだろう 一瞬躊躇した少年は溢れる激情を涙に変えて、研究所から走り去った 暗い夜道を助ける満月の光が射す中、「魔女」と侮蔑された少年は逃げた この日は、双子が生み出されて丁度一年が経過した日だった
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