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研究所に戻った男は少年が双子を連れて逃亡した事に、酷く狼狽えた
何故だと思考を巡らせるが、しかし何も、この状況を打破する案など浮かばなかった
それと同時に妙だ、とも考えた
これだけ研究員が居る中、少年は如何にして双子を連れ出したのか
男は、ともすれば崩れ落ちてしまいそうになる足を叱咤し、双子が入っていたガラスケースに近付いた
砕けた硝子の破片には、微量だが血液が付着していた
「ごめんなさい ゆるさないで」
急いで書いた事がありありと判る文字に男は全てを悟った
少年は、騙されたのだと
「――フッフッフ、そうか、そうだったのか・・・
すまねェな、レン」
左手でサングラスの上から目元を覆った男に、取り巻きの女達は普段通りにすり寄った
己の利益の為に
男は未だに独特の笑い声をあげながら、しかし鬱陶しいと言わんばかりに女達を振り払った
常に浮かんでいる笑みはなかった
男が愛した少年と双子は、所詮は捨て駒でしかなかった女達に奪われたのだ
研究所を出る時、少年はどんな気持ちでいたのだろうか
考えれば考える程に少年と双子への感情が募っていった
(必ず、見つけてやる
それから・・・面と向かって愛してるって言ってやらなきゃなァ)
再び口角を上げて、男は研究所を出た
もう二度と戻る事もないだろう
男が姿を消した研究所からは、彼の心情を現したようなどす黒い煙が立ち上っていた
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