魔女ザルムホーファーの逃亡

16/20
前へ
/32ページ
次へ
日が傾く黄昏時 少年は珍しく足を止めて来た道を振り返っていた 逃亡した日から、少年は男の事を忘れた事などなかった だからこそ、苦しいのだ 逃げなければと理性が訴え、一目逢いたいと本能が叫ぶ このまま逃げ続ければ双子は永らえるだろう しかし一目逢いに行けば、おそらくもう二度と逃れる事は出来ない もう少年には何が正しいのか解らなかった 「・・・ごめん、ね・・・・・・大丈夫・・・」 「大丈夫じゃねぇだろ」 突然耳に届いた懐かしい声に少年は勢いよく顔を上げた 変わらぬ巨躯にサングラスとピンクのフェザーコートを着込んだ出で立ちは、恐怖より先に安堵を運んできた 昔と同じように男の体温を感じたかった それでも・・・と少年は双子を背に庇った 怖かった 男の事は疑いたくはなかったが、少年には事の真相を確かめる術を持ってはいなかった ただ、双子を守りたかったのだ 一歩一歩、確かめるように少年に近付く 「おめェにゃ伝えなきゃならねぇ事がある」 数m離れた場所に立った男が、少年に語りかける 労るように、怯えないように 「その双子にはおれの血が入ってる」
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加