魔女ザルムホーファーの逃亡

6/20
前へ
/32ページ
次へ
ふと少年は自分と男を見た 部屋は真赤に染まっているのだが、自分と男だけは元のままだと言うことに、少年はこの時初めて気が付いた 静まりかえった部屋を見回していた少年の側に、男はぱしゃり、ぱしゃりと水音をたてて近付いた 「おめェ、名前は?」 「・・・みんなは、レンって呼んでた」 まだ成熟しきっていないソプラノが男の耳に届いた 少年はまた辺りを見回した 日々忙しなく動きまわる研究員達が、何故かピクリとも動かないことを少年は不思議に思っていた しかしそんな思考もあっさりと打ち切られた 男は少年を抱きあげると、しっかりとその腕に収めた 「おめェはこれからおれと暮らすことになった わかったか?」 「・・・そっか・・・ うん、わかった」 男の胸に頭を乗せて、柔らかなフェザーコートを握りしめた少年は、研究員達がもう二度と動かないことをなんとなく理解した 今まで世話をしてもらった事に、少年は少なからず感謝していた だからといって愛してもらったかと言えば、そうではなかったと振り返る だから少年は口内でポツリと呟いた (さよなら) 特に後悔はしなかった
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加