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ふと少年は自分と男を見た
部屋は真赤に染まっているのだが、自分と男だけは元のままだと言うことに、少年はこの時初めて気が付いた
静まりかえった部屋を見回していた少年の側に、男はぱしゃり、ぱしゃりと水音をたてて近付いた
「おめェ、名前は?」
「・・・みんなは、レンって呼んでた」
まだ成熟しきっていないソプラノが男の耳に届いた
少年はまた辺りを見回した
日々忙しなく動きまわる研究員達が、何故かピクリとも動かないことを少年は不思議に思っていた
しかしそんな思考もあっさりと打ち切られた
男は少年を抱きあげると、しっかりとその腕に収めた
「おめェはこれからおれと暮らすことになった
わかったか?」
「・・・そっか・・・
うん、わかった」
男の胸に頭を乗せて、柔らかなフェザーコートを握りしめた少年は、研究員達がもう二度と動かないことをなんとなく理解した
今まで世話をしてもらった事に、少年は少なからず感謝していた
だからといって愛してもらったかと言えば、そうではなかったと振り返る
だから少年は口内でポツリと呟いた
(さよなら)
特に後悔はしなかった
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