1章

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1章

 香港は1999年英国から返還され、めまぐるしい歴史を歩んできた。そこに住む人もそうであった。  1999年まで香港は英国の植民地のため、市民は英国属領市民(BDTC=British Dependent Territories Citizen)パスポートを持っていた。香港が中国に返還されると、海外在住英国国民(BNO=British National Overseas)パスポートの発行か、中国パスポートも申請できた。BNO保持者の多くがカナダ、オーストラリア、シンガポール、アメリカ等の外国に移民権を持つ、世界でも特有の香港の人々。  香港生まれの香港育ち、香港の歴史に翻弄されたBNO保有女性Lee・Lie(リー・ライ)。Leeの叔母は、香港の警察組織一族の長。叔母の一言で政府が動くと言っても過言ではないので、誰も逆らえない。ゴッド・マザー。権力拡大の為に、ほとんど英語が話せないLeeが、アメリカで大学生として生活している。  Leeは5歳の時、両親・兄と共に車の移動中に命を狙われ、Leeの兄は幼かったが将来を期待されていただけに、祖母は落胆。Leeは車の中で寝ており、唯一の生存者。祖母はLeeに一族の未来を託し、命の危機を防ぐため仏教国タイの寺に身を隠させ、そこでLeeは人生の基本となる事を学び、学校へも行き、現地の生活に溶け込んでいた。  タイの寺は男性の僧侶しかいないので、Leeが現れた時は困惑していたが、時間と共に僧侶達がLeeの父親の様な存在になっていった。タイの寺は女性が入る事が禁じられているが、Leeは小学校に入る前までは男の子の格好で生活、小学校に入ってからは女の子として少しずつ寺から離れた生活を送りながら、タイでの生活を一生送れるかと思っていた矢先、中学生になる前に香港に帰らされた。  タイから離れ、香港の生活に慣れず部屋で泣く日が続いていた。  そんなある日、韓国から幼なじみのダニエルが香港に来たので、やっとLeeは元気を取り戻し、香港での生活を始めた。
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