月の駅

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「ずいぶん昔の列車だったんだな」  その人が誰なのか、オサムはわかっていました。  でも、 オサムにとってその人は、会えたことは ない人でした。 会うということは もう現実的なことではありませんでした。  遠い時間のかなたに、 確かに自分の近くにいた人だ というぐらいの 冷静な気持ちでした。  ただ、 証明書を捨てる気には なぜかなりませんでした。  もう一枚の「滞在証明書」を受けとったその人は 当時、 どこに行く途中で月の駅をみて、 どんな思いでこの内容を読んだのだろう、 オサムはそんなことをちらちらと思いながら、 都心の仕事先に急いだのでした。  朝の東京は今日も気温が高く、 暑くなりそうでした。
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