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その上ベビードール一枚で、ラボメンバー共用のPCデスクに腰を掛けて端末の電源を入れるのはいったいどういうわけだ。
少しして、立ち上がったデスクトップに起動されたのは創薬シミュレーションソフトだった。本当に創薬の研究を今からするというのか。その格好にはいったいどんな意味があるんだろうか。
「渡辺君?」
「は……?」
気が付くと僕は、五辻ことり次期助教の白磁の如く白い肩へ手を回そうとしていた。
何をやっているんだ僕は! おかしい、僕は妄想力に多少自信をもっている反面、決してそれをむやみに発露しない紳士の筈だ。いや結局チキンなだけだろとか言われるがそんな事は無い、僕は強靭な理性によって己の欲望と衝動を常に制御できる紳士の中の紳士、紳士オブ紳士のはずなのに。
「す、すみませんっ……!」
慌てて引っ込めようとした僕の手を、ピタリと、五辻ことり次期助教の小さな手が握る。その衝撃が電流の如く脳髄まで駆け上がって、脈拍が一気に加速した。
「いいよ、続けて……?」
「は……?」
意味が分からなかった。続けてとは何を続けるのか。五辻ことり次期助教は空いているもう片方の手で、着々と創薬シミュレーションソフトを操作している。この人はいったい僕が何をしようとしたのかわかっているのだろうか。
「何を固まってるのかな? ほら……」
ぐいと、握られた手が引っ張られた。ただでさえ五辻ことり次期助教と触れ合ってしまっている掌は敏感になっているというのに、そこに触れたのは紛れも無く、
「えっ、おうええええっ!?」
熱を帯びた洋菓子のようにふかふかの先端に、小さなゴム玉のようなコリコリした触感が腕を伝って這い昇る。
「んっ」
ぴくんと奥ゆかしく跳ねる、真っ白な肩からはベビードールのブラトップがずり落ちている。髪からの柑橘のような香りに混じって、湿った女性特有の生々しい香が鼻孔に流れ込む。
「せせせ先生、いいいいったいなにをばば」
「だから、創薬の秘訣だよ。ひうっ……」
「あぁっ、すみませ……、んっ!?」
唐突に振り向いた五辻ことり次期助教の唇が僕の口を塞いだ。後ろに回された華奢な腕が僕の身体を心地良く締め付ける。
小さな舌が入り込んで来る。真っ白になる頭の中にまた、プラスチックのような質感の錠剤が挿入される。
「ぷはっ、な、何を……」
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