序章

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とある山中の大きな桜の木の前に、 母子とおぼしき、幼子と若い女がいた。 「ここにいてくれるかしら? 私は今から薬草をとってきますから」 「はい、母様(ははさま)」 「いい子ね」 女は籠を手に持ち、木の根もとに座らせた幼子にむかってそう言った。 「はい、母様(ははさま)」 「いい子ね」 素直に首肯した幼子の頭を満足そうに撫でると、すっと立ち上がった。 そんな女に、幼子は無駄とわかりながらも、共に行きたいとねだる。 「母様、一緒に行ってはいけませんか? ……一人は寂しいのです」 「い……けませんよ。危険ですから。 ここなら一人ではないのです。 貴方のためです。よいですね?」 女はそれを拒絶すると、さとすように幼子に話した。 幼子は、全てを分かっているかのような笑みを浮かべると、女が望む返事を出した。 「……はい。ここにいます。 行ってくださいませ、母様」 「ごめんなさいね」 母と呼ばれた女は、幼子の頭をゆっくりと撫でると横道へと入っていった。 幼子はその背が見えなくなるまで、ずっと見つめ続けていた。 やがて、桜の木の下で膝を抱え、眠りについた。
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