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その事件は、俺の親父が巻き起こしたものだった。
日本中が震撼する、大きな大きなニュースになる程の。
親父は、お世辞にもいい父親だとは言えなかった。
家族を殴り、罵る。
いわゆるDVってやつだ。
たまに、ワケの分からない言葉を話していた。それも、意味不明なものじゃなく…どこかの言語を。
その日の数日前から、親父は帰って来ていなかった。
それは良くある話だ。
でも、今回は違った。
警察から逃げ回っているらしい。
この日から連日、外にはマスコミが押し寄せ…警察も家に来る様になった。
子供でも、事の重大さは分かる。
無差別に大量殺人を犯した罪の重さなんて…そんなもの、分かり切っている。
『お母さん…これから俺たち、どうなっちゃうの…?』
『大丈夫よ。斗真に何の罪も無いもの。きっと…日が経てば、普通に生活出来る日が来るわ』
家からは出られなくなった。
学校も、気が遠くなるくらい行っていない。
不安で不安で仕方ない日々が続いても、俺が何の不満も口にしなかったのは
『斗真…ほら、飴食え飴!今の俺たちに出来る事は、母ちゃんに笑顔を見せる事だけだ!』
兄貴が、居たからだと思う。
頭が良かった兄貴。俺が授業についていけなくなると困るから、と…勉強も教えてくれた。
一緒に遊んでくれた。
兄貴が居たから、この不安もかなり無くなっていたんだと思う。
だから、俺は兄貴が大好きだった。
この時は…兄貴が居たから、あんな毎日を乗り越えられたんだと思う。
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