番外編:藤原昴

16/21
前へ
/257ページ
次へ
 戸惑ったようにしている千昭の両手を集め、握りしめる正一の頬は染まっていた。 「や、あの……その……」  と、ちらちらこちらを見てくる千昭。  俺が好きだと言って離れないのはお前なんだから、さっさと断ればいいだろうに。  しかしその手。勝手に握るなよこいつ――どうして俺はこんなに苛立っているのか。  表には出さぬよう、無表情を作る。  今まで逆の立場しかなかったからな。俺が迫られ、千昭がそれをうろたえながら見つめている、慣れた形でないからだろう。 「いいんじゃあねぇか。お前、どうせならばこのままマネージャーを辞めて日本にいろよ。そうすれば俺だって自由に遊べるし、な」  幸せそうな二人の邪魔を本格的にする気は無いが、少しくらいはちょっかいをかけてもいいだろう?  琢己の全身へ視線を這わせると――斑鳩がずいと、琢己を背中に隠した。  鼻で笑っちまう。  まぁ、そんな事を言いはしてもどうせ千昭の事だ。縋り付いてくるに決まっている。  ちらりと視線を投げかけてみると――何故うつむいているのか。
/257ページ

最初のコメントを投稿しよう!

537人が本棚に入れています
本棚に追加