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「そうだね……」
かすかに鼻を啜るような音が聞こえてくる。お前……泣いているのか?
驚くがそれを表には出したくない。
指でひょいと顎を上げてやると、その手を握り締められた。
泣きながら、微笑みかけられる。
見覚えがある顔だ。それは心底、何かを諦める時にする表情で……
「今まで本当に、ごめんなさい。ずっと俺の我儘に付き合わせてしまった。昴、本当は家の会社を継ぎたかったのでしょう? でも僕が、モデルを続けて欲しいって粘って訴えたから――そのせいで、人生を狂わせてしまったね」
阿呆か。しつこく誘われはしたが、結局、それを選んだのは俺なのだ。
だからモデルを続けることにしたのは自分の望んだことであり、千昭に無理やりやらされている訳ではない。
喉が詰まってしまった。糞、と舌打ちをする。
正一が、またソファに座ったかと思えばそのままの動作で千昭の背中をさすり始めた。
「俺の許可無くこいつに触るな」
と、反射的にその手を叩き落としてしまう。
ああ、あっけにとられたような顔をするな、千昭。俺だって何が何だかわからん。
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