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千昭が目を見開いている。俺だってそうしたい。
「昴……」
と、掠れた声で囁かれたその時――
「藤原先輩は小林先輩が好きなんだってさ」
てめぇ。そこまでは言っていないだろうが、阿呆大地!
素早くスーツのポケットを探りそこからハンカチを取り出して、はしゃいだ様子な大地の顔面へと強く叩きつけるように投げる。
千昭のくすくすと楽しげに笑う声が耳を擽ってきた。
糞、どうしてだか余計に顔が熱い。
ふと正一へ視線を向けてみると――すごいな、その歳でそんな風によどんだ空気を背負えるのか。
落ち込んだように頭を垂らしている正一のもとへ、麻紀が走り寄った。
「元気だして」
と、肩へ手を置いてゆく。
「優しいんだな」
正一が頭を上げた。
麻紀は笑顔だ。
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