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「……梓は、
世間に出たいって俺に言った。
大学を出て、そのまま俺と
結婚したから何も知らない
自分が情けないって。
判るのは家の中のことだけで、
俺の気持ちを疑いながら
暮らすのは嫌になったんだと」
「……あーちゃんが?」
「そう。
家の中のこと以外何も知らないから、
不安になって相手のせいに
したくなる。そういうのは嫌だって。
俺との暮らしが味気ないのも
あっただろうけど、梓はもっと
色んなことを知りたいから、って。
別れるとき、そんなこと言ってた」
……それなら引き止める理由なんてないな、と思った。
そのとき、俺も自分の気持ちがはっきりしたんだ。
結婚しようとしまいと、俺は何も変わらないんだ、ってことを。
「まあ、今お前の話聞いてて思い出したことなんだけどな。結婚生活と引き換えにしてもいいくらいの目的みたいなものでもないと、結局また物足りなくなるだけだ」
「……今、頭にすごい冷水ぶっかけられた気分……」
「考えてなかったのかよ。そんなんじゃ話し合っても旦那のペースになるだけだぞ」
「旦那の出方次第で、どうにでもひっくり返せるって……そんなことばっかり考えてた……」
「ひっくり返せるって、お前。相手は旦那だろ。敵じゃないんだから」
本気で思春期みたいな操に、溜め息と笑いが同時に出てくる。
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