つついた藪から出るのは棒か、蛇か。

19/34
前へ
/34ページ
次へ
   思春期の頃に恋なんてしたこともないが、きっとこんな感じなんだろうと思う。  四六時中気になって、何も手につかなくて──っていう。  仕事を終えた俺が向かっていたのは、芽衣の働く店だった。  本当なら、帰って荷造りをしなきゃならないってのに。  引っ越しはもう数日後だっていうのに。  一刻も早く、芽衣に会って訊きたかった。  昼間のあれは何だったんだ、と。  メールや電話じゃ駄目だ。  それじゃ芽衣の些細な反応が判らないし、第一そんなことで済ませられる話じゃない。  そんな女々しいことを考えてから──ふいに古い記憶が甦ってきて、眩暈がした。  ……メールで別れ話を済ませたのは、誰だ。  高校生のときに。  俺だ。  最近、こういうことが多い気がする。  誰かや何かに苛立って、有り得ない……と思った瞬間、自分も同じようなことをしていたことを思い出す──というような。  背後から見えない矢が降り注ぐように、過去は時々復讐しにやってくる。  大事なことが判らないような時分にやってしまったから仕方ない、では済まなくなるような。  それが些細なことであればあるほど取り返しなんてつかなくて、何もかもが手遅れで。 .
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

111人が本棚に入れています
本棚に追加