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思春期の頃に恋なんてしたこともないが、きっとこんな感じなんだろうと思う。
四六時中気になって、何も手につかなくて──っていう。
仕事を終えた俺が向かっていたのは、芽衣の働く店だった。
本当なら、帰って荷造りをしなきゃならないってのに。
引っ越しはもう数日後だっていうのに。
一刻も早く、芽衣に会って訊きたかった。
昼間のあれは何だったんだ、と。
メールや電話じゃ駄目だ。
それじゃ芽衣の些細な反応が判らないし、第一そんなことで済ませられる話じゃない。
そんな女々しいことを考えてから──ふいに古い記憶が甦ってきて、眩暈がした。
……メールで別れ話を済ませたのは、誰だ。
高校生のときに。
俺だ。
最近、こういうことが多い気がする。
誰かや何かに苛立って、有り得ない……と思った瞬間、自分も同じようなことをしていたことを思い出す──というような。
背後から見えない矢が降り注ぐように、過去は時々復讐しにやってくる。
大事なことが判らないような時分にやってしまったから仕方ない、では済まなくなるような。
それが些細なことであればあるほど取り返しなんてつかなくて、何もかもが手遅れで。
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