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消えるってことは、これまでと同じように芽衣との関係もおしまいにするってことだ。
相手が気付いていないのをいいことに、自分の都合のよさを棚に上げて責める。
相手の罪悪感とか引け目を利用して、表面上はすっきり別れる。
──馬鹿か。
惚れてる女がよその男にちょっかいかけられて、黙ってたら男じゃないだろ。
自我からプライドが剥がれ落ちる、メリメリと痛々しく軋んだ音が自分の中から聴こえた。
たぶん血なんかも吹き出てると思うけど、今は見なかったことにした。
「……おい、人の女に何してる」
何も考えられない真っ白な頭でも、相応しい言葉は出てくるものだ。
暗がりの路地で重なっていたふたつの影は、俺の声にハッと驚き、慌てて離れた。
芽衣の方が男を突き飛ばしたのを見て、少しだけホッとする。
これがどういう状況かは判らないが、芽衣は俺に対して言い訳をする気がある──それくらいの感情はあるんだと思ったから。
殴りかかってしまわないように、静かに深呼吸をしながら足を進める。
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