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近付いてみると、芽衣の顔が怯えて泣きそうになっていた。
そういえば昼間も、緊張してた感じだったな。
あのとき一緒にいたのも、たぶんこの男だ。
明るい茶髪に、光沢のあるサテンのスーツは目立つ。
特殊な商売であることをあえてアピールするような風貌を、鼻で笑ってしまいたくなる。
「し、シロちゃん、どうしてここに……」
「話がある。だから、迎えに来た」
端的にそう口にすると、芽衣は困り果てたように俯いた。
疑いたくはないが、その反応がグレーすぎて、必死に抑え込んでいる怒りが喉の奥でグルグルと渦巻いている。
これが飛び出してしまったら、何をするか判らない──。
その自覚があった。
だから、身体を必要以上に揺らしてその怒りがこぼれ出してしまわないように、真っすぐ、ゆっくりと歩く。
疑われたくないのなら、ちゃんと俺の顔を見ろ、芽衣。
そう思ってから、女は嘘をつくときほど視線をそらさないもんだっけ、なんて思った。
「……“俺の女”?」
芽衣を抱きすくめていた男が、訝しげに俺を見る。
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