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気持ちは判るが、今の俺はここのところ通じ合っている、という幸せな日々をくれた芽衣を信じるしかない。
「誰が、誰の女だって?」
茶髪の男は、鼻で笑いながら肩をすくめる。
その馬鹿にしたような態度にカチンときた瞬間、芽衣の手が動いた。
芽衣は、自分より頭一つ大きな男の頬を迷うことなくはたいた。
「だから……!
付き合ってる人がいるって、
あたし何度も
そう言ってるじゃない……!!」
言いながら、芽衣の瞳から涙がこぼれた。
その言葉と涙が、どれほど俺を安心させたか、なんて──きっと、誰にも判らないんだろうな。
「……芽衣」
震える芽衣に手を差し出すと、彼女はまだ捕まえようとする男の手を振り切り、こっちに駆け出してきた。
縋るような芽衣の瞳を見て、状況こそ判らないが彼女の想いが手に取るように理解できた。
今の場面を見られて、芽衣も恐ろしくなったんだろう。
俺が誤解して、自分は見捨てられるのかと。
腕の中に飛び込んできた芽衣を受け止め、その顔を覗き込んだ。
「大丈夫か」
「うん……ごめんシロちゃん、ごめん……!」
謝罪の意味は判らないけど、彼女が俺に何か悪いと思ってるなら、その罪悪感の動機を信じてやるだけだ。
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