111人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
男はしばらく黙っていたかと思うと、深い溜め息をついた。
そうしてポケットから煙草を取り出すと、何事もなかったかのように咥えて火を点ける。
「──ミサヲ、お前、俺のこと切るってこと?」
源氏名で呼ばれた芽衣は、ピクリと反応する。
こいつら、恋人じゃない。
それは、判った。
でも、男と女なのは間違いなくて、人間関係の複雑さに眩暈がしそうになった。
世の中、名前のつかない関係なんていくらでもあるもんだ。
名前のあるものだけに縋っているやつの頭の中は、割と陳腐なことしかないもんだし。
そう嘲りながらも、芽衣と恋人であることを確認した俺も、その陳腐な男なんだけど。
「返事、しろよ。ミサヲ」
.
最初のコメントを投稿しよう!