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胸の奥に説明のつかない罪悪感がジワリと滲んできて、俺はデスクに両肘をつく。
「何かあったのか」
「……え?」
「お前、なんかおかしい」
端的にそう質問した。
本当だったら、ちゃんと訊いてやるべきなのかも知れない。“俺と別れた他にも何かあったか?”とか。
でも、それは操をまだ女として気にかけている……というふうに取られかねない。
相手が操なんだから、何か誤解があればその場ですぐに判るだろうし、訂正もできる。
それは判っていたが、わずかでも、たった一瞬でも操に妙な期待を持たせたくはなかった。
俺の温情と言えばそういうことになるだろうし、保身と言えばそういうことになると思う。
大人になればなるほど、全ての理由が単純ではなくなってしまう。
悲しいかな、ときにその単純でない意味の中のどれが強い意志や意味を持つのか、自分でも判らなくなる。
俺の中にはいつも芽衣がいるようになった。
だから今回は間違いなく保身だと思うけど、操と関わった時間の長さが、冷徹を切り捨てようとする。
まったく、俺ってやつは甘い。
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