夜の世界の表裏。

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   青臭い考え方が薄らいできたのは、いつからだろうか。  テンプレートに乗っ取った当たり障りのないことしか言わない世の大人達を、昔は軽蔑していた。  沈黙を守ることも、保身や臆病なんだと。  だが最近、大人ってやつになってみて、よく判る。  ガキが思っているよりもずっと大人はシンプルな生き物だ。  保身や臆病、ないとは言えない。  だがテンプレや沈黙に走るには、そういう欺瞞を更に上回る理由がある。  単に、ひたすら面倒なんだ。  いい歳をして、綺麗ごとをしれっと口にできるほど、詐欺師じゃないつもりだ。  でも、この世界に生きてる人間が全員気持ちよく暮らせる方法がもしあるとしたら、素晴らしいとは思う。  その程度には俺は善人で。  だが、悲しいかなこの世界はきっと、始まったその瞬間からずっと不平等でできているに違いない。  不平等こそが平等なんだろうな、なんて哲学者みたいなことが最近よく頭によぎる。  世界はある日急にどこにでも傾いて、幸と不幸を均すようにばらまくもんだ。  その真理みたいなものが自分でどうにもならないのなら、せめて自分の周り、小さなコミュニティを守ることが暗黙の正義になる。 .
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