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自分の中の少年が死んだわけではないが、こうして30を目前にして思う。
少年少女ってヤツは、鋭い目と言葉で大人を糾弾する習性があるが、彼らは残念ながら気付いていない。
そうして後ろ指を差している対象は、すべからく少年少女の時代を通り過ぎ、生き延びた生き物だってことを。
いつか自分も、そうして指を差されるってことを。
「何難しいこと言ってんの? ご飯冷めるよ」
ふわりと頭の上から芽衣の声が落ちてきて、何よりも愛しい安穏が俺をぬるま湯の中に解き放つ。
フロ上がりの熱気が、まだ身体の周りを漂う。
ジワリと額に滲む汗を首にかけたままのタオルで拭うと、芽衣が正面に腰を下ろした。
「高校生に襲われたんだよ、今日」
「ええ?」
芽衣は半笑いでプシュ、とビールのプルトップを引いた。
「操の出版社。高校生が見学に来るから手伝えって、若いのと2人で駆り出されてさ」
「授業か何か?」
「そう。教師のコネで来たらしい。10人ほど」
「珍しい。あたしが高校生のときはそんな機会、なかったなぁ」
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