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「お前らお互いに引いて生活してるんだな。」
「あのバカ兄には引くよ?!
しまいには『愛に性別の壁なんて無意味!!』とか吠えてるし。」
「うん、引くな…。それ。」
いつの間にか甘酸っぱい空気が爽やかな空気になっていた。
談笑するうちに観覧車は一周した。
「あ~楽しかった。
でも押し倒せないのは残念だったけど。
まあ、次!次があるから!!」
聞き流しながら黒塗りのスポーツカーを走らせるもぐら。
「着いたぞ。亜衣。じゃあまたな。」
「いや!!」
「今日は帰りたくないの…。」
「さっき『次があるから』とか言ってたじゃないか…。」
「言ってみたかっただけだし。
可愛かった?押し倒したくなった?!」
「お前じゃないから…。押し倒すってあんた…。
おい、亜衣!!」
「ん?なあに?」
「次は学校さぼんなよ?」
「わかったよ。大丈夫だから。
ほんと親みたいなんだから。」
膨れながら、それでも、言わずにはいられない亜衣。
「また会えるよね?」
「ああ…」
「じゃあいいかげん降りてあげるね。
今日はありがとうございました。」
最後だけは丁寧にお辞儀をする亜衣。
「じゃあお兄ちゃんによろしくな?」
「バカ兄にはあることないこと報告しとくからね♪」
「アパート壊れるから止めろ!」
「もぐらさん」
「なんだ?」
亜衣の方を向いた瞬間、唇が重なった。というか亜衣から重ねてきた。
「なッ!」
「えへへ~」
女学生はすごい速さで走り去って行った。
「勘弁してくれ…。俺には男色も、少女愛好趣味もないからな。」
誰に言い訳しているのか、ブツブツ言いながら車を走らせた。
「あいつら、俺がヒーローだって?的外れもいいところだ。
しかし、あの妹は直球過ぎて参るな。俺からしたら娘ぐらいにしか思えないんだが。そういう意味では可愛いと言えなくもないが。」
「だからこそ、あいつらにはまともな人生を歩んで欲しい。
俺みたいにはならないで欲しいんだが。」
暗い夜道。黒光りする車は寂しげに住宅街を去った。
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