序章

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――幼い頃、吸血鬼に出会ったことがある。 世界で最も有名な怪物の一つ。 誰だって名前くらいは聞いた事がある。 そんな怪物相手だ。 出会いの内容なんてろくなものじゃなかった。 家族――両親と妹は、その吸血鬼に殺された。 全員、目の前で。 父親と母親は干からびるようにして、死んだ。 妹は玩具の人形を壊すように、体をバラバラにされて、死んだ。 誰も信じてはくれなかった。 家族が吸血鬼に殺された、なんて話は、誰も。 強盗殺人。 死因は失血死。 犯人に繋がる手がかりはない。 それが、あの夜の全てとされた。 吸血鬼はいると叫び続けた。 最初は笑われるか、同情された。 家族の死を受け入れられずに心を病んでしまった可哀想な子供――そういう事にされた。 親戚は天涯孤独の子供を誰も引き取ろうとはせず、押し付け合いが始まった。 あれほどつるみ、親友と思っていた友達は、一人残らず離れていった。 どこも悪くないはずなのに押し込まれた病院。 カウンセラーの先生は『悪い夢を見ているのだ』と言っていた。 その時の自分からすれば、この現実の方こそ、たちの悪い夢に思えていた。
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