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1  良かれと思ってやったことでも、少し間を置いてから思い返してみると後悔の念に駆られることがある。  たとえば、ダイエット中のときに二時間ランニングしたから少しくらい食べてもいいだろうと誘惑に負け、結局は体重が増えてしまったり、バンドに誘われて高い楽器を買ったはいいけど、音楽の方向性の違いでバンドが解散したり、などなど。  間違った方向を選択して後悔をしてしまうのは、人間なら誰しもあることだ。  しかし、本来ならその失敗を教訓にして同じ失敗を繰り返さないようにするべきなのに、俺は何度目かわからない、無駄遣いと言いう後悔をしていた。 「なんで入金しちゃったかなぁ……。給料日までまだ一週間もあるのにさぁ……」  情けない後悔の叫びが、ほとんど人が入っていない大学の図書室に溶けて消えていく。  だらしなく机に伏せながら、自分の財布の中身を確認する。何度確認しようが、そこにあるのは野口英夫の顔が印刷された紙幣が一枚あるだけだった。野口英夫の視線を見れば見るほど後悔の念が増していくような気がして、俺は千円札を財布にねじ込んだ。自分のアパートに帰れば冷蔵庫の中の食材や缶詰がわずかにあるとはいえ、一週間を乗り切るのは難しそうな感じがした。 「なんかすぐにお金もらえるバイトとかない?」  俺はすぐ目の前の席に座っている、同級生兼友人の稲村に尋ねた。  手や腕、首などにいくつもの銀色のアクセサリーを纏わせ、肌もいい色に日焼けした稲村は、視線を俺に向けて言った。 「おまえさ、すでに二つ掛け持ちしてるんじゃないのかよ? これ以上働いたらマジで単位取れなくなるぞ。とくに井上教授は簡単に単位くれねぇし」  相変わらず不良みたいな恰好をしているくせに真面目なことを言う。窓から入る夕暮れの日差しを受けながら、ため息をつく。 「だよねぇ。あの不毛地帯め」  ハゲ頭が特徴の井上教授を簡単にバカにして稲村と軽く笑うと、俺は図書室の時計で時間を確認した。時刻は午後の五時半。そろそろ帰らなくてはならない時間だ。 「そんなに金に困ってんならバイトを増やすんじゃなくてさ、無駄遣いとかやめて節約してみたら?」
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