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机の上に並べられていたノートや論文、気分転換用の小説を片付け始めると稲村は金色に染められた髪を掻きあげながら言う。ごもっともな意見だ。
「これでも結構節約してる方なんだけどね。電気代とかガス代とか」
「いや、そういう一人暮らしの上でどうしてもかかるお金はしょうがないけどさ、おまえは余計なものをひとつやっているじゃん。それをやめるだけでだいぶ楽になると思うけどな、おまえの台所事情」
……今現在、俺にははまっているものがある。それが無駄遣いの原因だ。無駄遣いだとわかってはいるのに、いつまでたってもやめられない。それは俺にとってはたばこやお酒よりもたちが悪いものだった。
「それに現実を見るべきだ」
……稲村のその言葉の真意を理解した俺は、稲村の優しさに感謝すると同時に、わずかなうっとうしさを感じた。
適当な愛想笑いを作って荷物をカバンにしまい終わった俺は、図書室を後にしようと出口に向かい、扉を開ける。稲村に別れの挨拶を言おうと振り返った瞬間、胸元に何かがぶつかった。
身体の向きをもとに戻して再び稲村に背を向けると、小柄な女の子が、顔のぶつかった部分を手でさすりながら立っていた。
「ごめんなさい。大丈夫ですか?」
相手が先輩か後輩かわからないため、俺は一応敬語で謝り、出入口付近に突っ立っていたことを少し後悔する。
すると彼女はさすっていた手をおろす。そこで俺は息をのんだ。整った顔立ち、大きな瞳に長いまつ毛、きめ細やかな肌をした彼女はまるで人形のようにとてもきれいな容姿をしていた。
「大丈夫だよ。でも扉の前では気を付けてね~、小此木(おこのぎ)」
パーマがかかった長い栗色の髪をふわふわとさせながら、子供っぽいその見た目よりも子供っぽい声音で返事を返してきた。彼女はそれだけ言うと俺を避けながら図書室の中へと入って行く。
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