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 あっけにとられた俺は稲村に挨拶するのも忘れて扉を閉めた。あんなに綺麗な人もいるんだなぁと思いながら数歩歩くと、首を左右に何度か振ってすぐにその考えを頭から追い払った。  もっと綺麗でかわいい女性が身近にいることを忘れてはならない。  愛しの恋人のもとに早く帰るために、俺は大学内に停めてある自転車へと向かう。 「あれ?」  しかし、図書室から離れたところである疑問が生まれた。 「さっきぶつかった人……なんで俺の名前知ってたんだ?」             ▼  大学の外に出ると、十月の秋の季節にふさわしい少し肌寒い空気が肌に張り付いた。この分だと今着ているパーカーがジャケットに変わり、ジャンバーを着こむようになるまですぐになるだろう。そんなことを思いながら俺は自転車をこいで夕日に染まった商店街を駆け抜けた。廃れかけている商店街は多くの人が帰宅につく時間にも関わらず人通りが少なかった。まぁ、そのおかげで速い速度で自転車を走らせることができるわけなんだけど。  都内のくせに妙に田舎らしい町並みを抜けると、今度は大きな広場のような公園が見えてくる。日はだいぶ沈み、時刻は午後の六時を回っているため、公園にはほとんど人は残っていなかった。しかし、ほとんど人がいなかったからこそ残っている人の姿がよく見えた。そこに俺がよく知っている女性がいた。 「……」  俺は公園の入口付近に自転車を寄せ、ブレーキをかける。キキーッと甲高い音を上げて自転車を止めると降りて公園へと向かった。  夏にはとても青々しかった木々も今では秋らしい赤色や黄色に変わっていた。そんな木々を見つめながら小さく盛り上がった丘に登る。  丘を登りきるとそこには、気持ちよさそうに草の上に寝そべっている恋人がいた。相変わらず猫みたいに昼寝をする人だ。もう夜と言っても過言ではない時間だけど。  色白で整った顔立ちをしている彼女はそんなことも気にしないかのように、子供の様に寝息を立てる。  俺は彼女のそばまで近づくと、その場でしゃがみこんで額をびしっとチョップする。このまま寝かせておくと風をひいてしまう。すると彼女は叩いた額を抑えながら目を開けた。
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