小野寺麻衣子は完璧でした

10/37
前へ
/37ページ
次へ
「そういえばお母様。由布子はピアノが弾けるんだ。」 「あらそうなの!」 「そんなに弾けないわよ!」 私の言葉を遮って麻衣子がすっと指をさす。その先には見事なグランドピアノのが置かれていた。 「うちにはピアノがあるんだ。」 「…だからなんだと言うの。」 「弾いてみてくれないかい?」 …麻衣子はさっきのがお気に召さなかったらしい。どうやら少しだけ機嫌を損ねてしまったようだ。彼女がこうやって意地の悪いことをするのは大抵そういう時だ。 「さっきは悪かったわ。」 「私、由布子のピアノが聴きたいな。」 「その前に人の話を聞きなさい!」 「あら、由布子さんピアノ弾いてくれるの?」 私は気付かれないようにそっとため息をついた。麻衣子のお母様に言われてしまえば引き下がるわけにもいかない。本当に彼女は策士だ。 「本当にほとんど何も弾けないですよ?」 お母様に念押しして私はピアノの前に腰掛ける。よく手入れされたいいピアノだ。 私はそっとピアノに触れ、一気に鍵盤を叩いた。ベートーヴェンの「運命」。私の一番好きな曲だ。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加