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「そういえばお母様。由布子はピアノが弾けるんだ。」
「あらそうなの!」
「そんなに弾けないわよ!」
私の言葉を遮って麻衣子がすっと指をさす。その先には見事なグランドピアノのが置かれていた。
「うちにはピアノがあるんだ。」
「…だからなんだと言うの。」
「弾いてみてくれないかい?」
…麻衣子はさっきのがお気に召さなかったらしい。どうやら少しだけ機嫌を損ねてしまったようだ。彼女がこうやって意地の悪いことをするのは大抵そういう時だ。
「さっきは悪かったわ。」
「私、由布子のピアノが聴きたいな。」
「その前に人の話を聞きなさい!」
「あら、由布子さんピアノ弾いてくれるの?」
私は気付かれないようにそっとため息をついた。麻衣子のお母様に言われてしまえば引き下がるわけにもいかない。本当に彼女は策士だ。
「本当にほとんど何も弾けないですよ?」
お母様に念押しして私はピアノの前に腰掛ける。よく手入れされたいいピアノだ。
私はそっとピアノに触れ、一気に鍵盤を叩いた。ベートーヴェンの「運命」。私の一番好きな曲だ。
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