小野寺麻衣子は完璧でした

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一旦音を出してしまえば、頭の中で楽譜をなぞってその通りに鍵盤を叩けばいい。ただただその作業に熱中するのが、私は存外好きだった。その時その時で違う音も、思い通りに好きな音が出た時の達成感も。 弾き終わると同時に小さくため息をつき、私はそっとピアノの蓋をしめた。 「すごいわ由布子さん!本当に綺麗な音ね!」 「いえ、そんなことは…」 「いや、凄いよ由布子。さすが私の由布子だ。」 「ちょっと麻衣子さん!まるで恋人みたいな言い方して!」 「ふふ、ごめんなさいね。」 「私は別に。」 別に、嫌じゃなかった。むしろ嬉しかったのだ。麻衣子の私。それはものすごく魅力的な響きだった。麻衣子に褒められたことよりも、麻衣子のお母様に褒められたことよりも、予想以上にうまいこと好きな音が出たことよりも、麻衣子の口から出たその言葉が嬉しかったのだ。 「ありがとうね、由布子。」 「あなたが言うならまた弾いてあげないこともないのよ。」 「…素直じゃないね。」 「仕方ないじゃない。私だもの。」 「それもそうか。」 眉尻を下げてくすりと笑う麻衣子にまた胸がときめいたのはここだけの話だ。
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