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寒い。
私は駅の前でぶるりと身を震わせた。
眼鏡を掛け直して、足をすり合わせる。校則よりも少し長めのスカートを履いていてもこんなに寒いのに太ももまで露出させている女子生徒を見ると本当に馬鹿なんじゃないかと思う。
今週末は雪が降るという噂が流れていたが、なるほど確かに雪でも降り出しそうな寒さだ。
「やぁ由布子。待たせたね。」
「…大して待っていないわ。」
「そう?いつも悪いね。」
「好きでやっているのだから気にしないでちょうだい。」
我ながら素っ気ないものだと思う。しかし麻衣子は柔らかく微笑むと私の隣に並んで歩き出した。
聖母マリア像を通り過ぎれば校舎はすぐそこだ。きりきりと冷たく痛む両手を握り締めながら私はもくもくと歩く。もちろん、私より背が低く歩幅の狭い麻衣子を置いていかないように注意しながら。
「ねぇ由布子。」
「なに?」
「今朝は冷えるね。」
「そうね。」
「だからね由布子。今日は暖かい紅茶を淹れて来たんだ。教室へ行ったら一緒に飲もう。」
「お茶請けになりそうなものは持っていないわよ。」
私が答えると、麻衣子は嬉しそうにふわりと笑った。人のことを言えたものではないが、あまり感情を出さない麻衣子がこうやって嬉しそうに笑うのを見るのは悪いものではなかった。
「大丈夫。母がカップケーキを焼いてくれたんだ。レーズン入りのが好きだったよね?」
「ええ。」
麻衣子のお母様の焼くカップケーキはとても美味しい。前に彼女の家にお邪魔した時に焼いて下さったレーズン入りのカップケーキが気に入ったという私の発言を覚えていてくれたらしい。
「ありがとう」
とは言えなかった。何と無く気恥ずかしくて。それすらも分かっているのか、麻衣子はくすくすと笑うだけだった。
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