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どれくらいたっただろうか。教室がすっかり暖まってブレザーも脱いでしまった頃だから、きっと十分ほど。からりとドアが開いて、待ち人が現れた。
「私は由布子を待たせてばかりだね。」
「好きでやっているのだから気にすることはないわ。」
「由布子はそうだったね。」
何がおかしいのかまたくすくすと笑いながら麻衣子が教室に入って来た。鞄の中から水筒と紙袋を取り出した麻衣子が反対側の机に座ると、彼女の匂いがした。
「今日はチェス?」
「ええ。駄目だったかしら。」
「いや、丁度やりたかったんだ。」
ごそごそとカップケーキを出したり紅茶を淹れたりしながら麻衣子が言った。
「由布子は私のことをよく分かっていてびっくりするよ。」
それはこちらの話だと思った。いつも私のことを見透かしているようなのは麻衣子の方だ。私がそんなことを考えているのを知ってか知らずか麻衣子は私の目の前に紅茶の入ったカップを置いた。強すぎずあっさりした香りは、ダージリンだろうか。
「じゃあ、やろうか。」
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