プロローグ~出会いと始まり~

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プロローグ~出会いと始まり~

今から十数年前のことです。 青空の色をそのまま映してキラキラ輝く小さな泉の畔で、とある神様は出会ってしまいました。 神様である彼の目の前にはごそごそと動く小さなものがいます。 彼が出会ったもの、それはとってもとっても綺麗な色を持った赤ちゃんでした。 音を出さないよう、そっと足元の草を踏みしめて彼は赤ちゃんに近づきます。 しかし彼は大人の人間でも見上げなければならない程の大きな体をしていたので、すぐに赤ちゃんに見つかってしまいました。 彼の姿を見た赤ちゃんは恐怖から顔を歪ませ泣き出してしまいました。 それを見た彼は悲しそうに目を細めました。 どうしてでしょう。彼にとって人など取るに足らない存在であるのに。  彼は赤ちゃんにとても心惹かれていたのです。 言いようのない悲しみを抱いた彼は、ふと気づきました。 人の子を、これ程までに近くで見るのは初めてであることに。 そして、人の子とは神をも魅了する愛らしい生き物であったのだということに。 これが気の遠くなるような悠久の時の間、外界との接触を自ら断ってきた彼の、人の子との初めての出会いだったのです。 永い時を生きたがために感情が枯渇してしまった古き神である彼に悲しみや愛しみを思い起こさせてくれたこの赤ちゃんに、彼はこれまで生きてきて初めての執着という醜い感情を覚えたのです。 そして そう そして その神は 己の執着心が望むがままに 胸に抱いた負の感情を 満足させるように それと気づいていながら 狂気への一歩を踏み出すように 意味を 力を 呪縛を籠めた言葉を 涙のあとを残す その小さな人の子に  目に見えず また 消すことの不可能な刺青を その身体と魂に 刻み込んだのでした
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