残酷無情の死神

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壮年の男は少し体の力を抜き、心の中でそう呟いた。 そして気付いたことがもう一つ。美しい男の着ている衣服が、ただの平民では手の届かない高級品で纏められている、ということだ。 貴族の奴隷をやって来て幾度も貴族のお高い衣装を目にしている壮年の男は、男がとても稀少で高価な素材で作られた衣服を着ていることに服の色や形、装飾を見ることで瞬時に見抜くことが出来た。 壮年の男は美しい男の全身に目を走らせる。 美しい男は相変わらずの不機嫌そうな無表情だが、今それはどうでもいい。注目すべきは服だ。 壮年の男は美しい男の顔から下へ視線を下げる。 黒を基調として仕立てられたロングコートに、その胸元の隙間から見える純白のシャツ。細身の黒いズボンと、その上に履いた汚れの無い焦げ茶の革ブーツ。一気に目線を上げればリボンの巻かれた黒い帽子が目に入る。 それらには余計な飾りがなく、落ち着いた色合いで気品があった。彼の体にぴったりと合っていることから鑑みるに、オーダーメイドだろう。 袖の隙間から見える腕時計は、手入れを欠かさずにしているのか少しの曇りもない。 左手に地面から浮かせて持っている細身の杖も、持ち手と杖の先に銀の装飾が施された高価そうな一品だ。 それだけ分かって、美しい男の身分が高いことは確定した。 王族を含む上流貴族達は華美な衣服を着ることを厭う。改まった場によく足を運ぶ立場の人間には相応しくないが、彼の格好はまさにその上流貴族の特徴に当てはまっていた。 さらに、美しい男には自分達が状況を忘れて畏まってしまいそうになる程の滲み出る品格があった。 これは確実にかなり高い身分、しかも伯爵より高位の爵位を持っている筈だ。 意を決し壮年の男は美しい男に話し掛けることにした。緩んでいた気を引き締め、壮年の男は問いを投げかける。 「貴方は何者ですか。」 壮年の男は返事を待った。 しかし、美しい男は僅かに地面に向いていた視線を上げただけで、それ以外の反応を示さない。 またもや沈黙が続く。 「………。」 「………。」 なかなか進まない状況に痺れを切らした奴隷の女性がヒステリックに叫んだ。 「っ…貴方は私達の敵なんですか! それともっ、味方なんですか!? 黙ってないで答えてよ!! 気味が悪いわ!!」 「お、おい、落ち着け。な?」 「だって、うっ…うぅぅ。」
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