残酷無情の死神

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慌てて壮年の男と女性の近くにいた者が、泣き出した女性の背中をさすり落ち着かせる。 今まで殆ど動かなかった美しい男が、おもむろに杖の柄でコートの袖を捲り腕時計を見た。 「……はぁ。」 美しい男は眉間に寄っていた皺を僅かに緩め、深い溜め息を吐いた。そして疲れたように緩慢な動きで後ろを振り返り、壮年の男の位置からは何も見えない石壁の向こうに向かって目を眇めた。 「やっとか。叱りつけたい所だが…今はいい。来い。」 その美しい男の言葉を待っていたのか。胸の前で何か大きなものを腕で押さえつけるようにして抱えた若い男が、壮年の男達がいる裏路地の狭い入り口から入って来た。健康的な小麦色の肌と赤銅色の短髪という、ここら辺では見ない色を併せ持った珍しい容姿をしている。 若い男と美しい男の視線が交錯する。 抱えたモノが邪魔できちんとした礼を出来ないのか、若い男は美しい男に頭を軽く下げるだけの会釈をした。 「…すまない、主。予定よりも遅れてしまい。」 若い男のその言葉を聞き、美しい男はその黒い眼差しを奴隷達の方へ戻した。 「言い訳は後で聞く。仕事を優先しろ。」 「…承知。」 二人の会話を聞くところ、美しい男の部下と思われる若い男は、了承の言葉を返すや否や自分の腕の中にあるものをずるずると強引に引き摺りながら自らの上司の隣に素早く移動した。 それにより若い男との距離が縮まったことで、その腕に抱えられた何かが奴隷達にはっきりと見えるようになる。 一体何を抱えているのか、とその何かに目を向けた瞬間、壮年の男は顔を驚愕に歪ませて叫んだ。 「っな、何故その方が…!?」 目を限界まで見開き、細かに震える指でそれを指差す。 「ひぃ…っ!」 「ど、どうして…!?」 それをみた他の奴隷達も悲鳴と驚愕の声を漏らした。 それらの声に若い男の腕でぐったりとしていた何かに力が入り、上にその全体が伸びたかと思うと、その後頭と思わしきものがきょろきょろとした動きをした。 「なんだ、ここは。寒い、寒いぞ! 屋敷じゃない、っお前は誰だ!! 離せ! 無礼だぞ! これはお前の仕業か!? 何が目的だ、金か!!」 今いる場所を特定するために視線を周りに走らせる二つの瞳が、怯える奴隷達を捉えた。 「貴様等!? 何故貴様等がここにいる! いやそんな事はどうでも良い! 貴様等! 私を助けろ、命令だ!!」
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