残酷無情の死神

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壮年の男は美しい男に向かい膝をつき頭を下げた。 この時を自分達は待っていた。これで自分達の今後の処遇が決まる。 死か生か。苦か楽か。 嘘は言わない。真実をただ正直に話す。 彼を騙すことなど考えるな。知らないようでいて、その実彼は全てを知っている。 「奴隷達の代表として、奴隷達の中の最年長者アルドア=サズに質疑を行う。」 美しい男が跪いた壮年の男を見て言った。 遂に始まった。壮年の男もといアルドア=サズのこめかみから冷や汗が流れた。それは頬を伝い緊張で乾いた下唇の中央で雫を作った。無意識にその雫を舌で舐め取る。薄い塩の味が口内に広がった。 「はい。誠実に真実を述べる事を誓います。」 「ではアルドア、お前達がオルバート伯爵の下から逃亡したのは何故だ。」 「まともな食事も与えられず餓死者が後を退かなかったからです。無償の労働は奴隷の義務ですが、週に一度食料が与えられるかどうか分からないという処遇は余りに惨い。」 「お前達は屋敷仕えの奴隷か。」 「はい。外部の者との接触はほぼありません。」 「分かった。それではオルバート伯爵の釈明を聞こう。おい、腕を緩めろ。」 美しい男の命令に、若い男がオルバート伯爵の首を押さえる腕から少し力を抜いた。 オルバート伯爵も美しい男が残酷無情の死神である事に気がついたのか、先程のようには暴れず、大人しく若い男に拘束されながら美しい男を睨みつける。 美しい男は相変わらずの無表情でその視線を真っ向から受け止めた。 「オルバート伯爵。アルドアが言ったことは真実か。」 その問いにオルバート伯爵は忌々しげに吐き捨てる。 「ふん。真実なのかだと? 白々しいな、全てを分かっていて私達に言わせているのだろう。悪趣味なことをするものだ。その陶器のような面の下もさぞかし醜いのだろうな。」 美しい男へのオルバート伯爵の侮辱に若い男の顔が険しくなる。 「ああそうだ、食料は一切与えず、一日に一度塩を入れた水だけを与えていた。それだけのことで一月やそこらで死ぬような役立たずは要らんのでな。子供だろうと大人だろうと関係あるか!」 「なっ、何カ月も水だけで生きられる訳がないだろうが! 栄養失調で死ぬのが当たり前だ! 現に何人も死んでいった!! 知ってんだろう! しかも死体の処理を子供達にさせやがって! この外道野郎!!」
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