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その場にいた者達は、美しい男の姿から目を離せなくなり遂にそのまま見つめている間に跪いていた。
やはり彼は神だ。だが何故死を司る死神などと呼ばれているのか。こんなにも神々しく清い光を纏っているのに。
地面に跪きそんな思考をするアルドアからは、美しい男のあまりの神秘さに彼が処刑を幾度と繰り返して来た殺人者であるという恐ろしい事実が零れ落ちてしまっていた。
「私が」
美しい男が杖を腰の左横に添えたまま左手で杖の柄を、もう一方の手で杖の持ち手をそれぞれ掴み、ぐっと持ち手を掴んだ方の手に力を込めた。
音も無く、美しい男は持ち手を掴む右手を前に動かす。
「話せと言えば話せ。黙れと言えば黙れ。」
すると杖の持ち手と柄の間に切れ目が入り、鈍い光を放つ刀身が覗いた。
「勝手な言動は…許さない。」
美しい男は半円の軌道を描きながら右腕を振り切った。触れれば折れてしまいそうに細く、刃渡りの短い刀身が杖の中から姿を現す。美しい男はその小刀の柄部分を逆手に持ち、構えた。
「ぁ……。」
美しい男の動きと言葉に恍惚とする。
美しい男が来てから壁に張り付いて離れないあの大人しげな青年と若い男以外の、この場にいる全員が思考を忘れ、本当に神を前にしたような心地よさを感じていた。
月光を弾いてさらに鈍く光る仕込み杖の刀身。
「よって」
怒りの滲む声と共に美しい男は伯爵の眼前にその刃の切っ先を突き付けた。
美しい男の動きに合わせ銀の粉が散る。
「仕置きだ。」
次の瞬間。
血が、狭い路地の地面に、壁に、若い男の頬に、飛び散った。
「ぎゃあああああっ!!! うああっ…あぁっ!!」
伯爵が左目部分から血をだくだくと流し悲鳴を上げた。伯爵の左半分の顔が血の赤に染まっていく。
ポトリ、ポトリと若い男の腕に血が落ちる。
舞っていた銀の粉が消え、美しい男の神々しく輝く姿が元に戻った。
途端に奴隷達の頭に鈍痛が襲う。
「っうぐ! ………?」
「いっ! って、あれ?」
しかし奴隷達は少し困惑した。
何故か以前の時より痛みが小さかったのだ。
一方伯爵は目を切られた痛みと、加えられた一瞬の頭痛に喚く声を大きくした。
「ひぐああああっ!!? ああっ、くそっくそっ痛い! 痛いぃ!!」
「オルバート伯爵。確かに貴方にとってこの処刑審議は茶番以外の何物でも無いだろう。だが、それは当たり前だ。」
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