残酷無情の死神

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美しい男は激痛に取り乱す伯爵を無感情に見下ろす。 「これまでの質疑は貴方を罰した後の奴隷達の処遇を決めるための物だった。それも二つ程しか聞いていない所で貴方に邪魔されたんだが…まぁもういい。」 言い終わると、美しい男は血が付いた刀身を杖の中に戻した。 伯爵は切られた目に手をやろうとしているが、両手を縛られているために叶わずもがいている。 美しい男は下も見ずに地面に落ちた血を避けながら一歩伯爵に近づいた。 伯爵の視界が美しい男の着るコートの黒で埋め尽くされる。 美しい男は、腕の拘束をしたままの若い男と一緒に跪こうとしたため動きの速い若い男に引っ張られ、仰け反るような格好で尻餅をついてしまった伯爵を見下ろした。 「この処刑審議が奴隷のことであったことに貴方は安堵した。私に知られてしまえば即座に死に直結するような事をした心当たりが貴方の胸裏にあったからだ。 …だから貴方は私の言葉を遮った。 ばれていないのなら、あの事についてでは無いのならどうでも良い、帰らせろと。 どこか焦ったような言い方だったな。いつ何がきっかけでその心当たりが私に露呈してしまわないか不安だったんだろう。実に不愉快な理由だ。」 美しい男はそう冷たく言い放つと跪いたままの若い男に目で促した。 以心伝心。 若い男は美しい男の意図を読み取り頷いた。若い男は未だにもがき続けている伯爵を押さえ込んだまま後ろ手に縛った腕を掴むと、自分が立つのと同時に力付くで立ち上がらせる。 伯爵はショックから立ち直って来たのか、息は荒いものの落ち着きを取り戻していた。 「はあっはあっ、うっ…くそっ。」 「貴方が気にしているその件については軍に委任されることが既に決まっている。だからその件の罪を私が罰することはない。軍に命を救われたな伯爵。」 美しい男は見せ付けるように首を小さく反らして首筋を晒け出すと、喉仏に人差し指を宛てがい冷笑とも呼べる笑みを伯爵に向けた。 それを見た伯爵の血濡れの顔が引き攣る。 「…私ならとっくに貴方の首を刎ねていた所だ。喉を二つに両断してな。私と違い、軍が無駄な殺生を好まない集団で良かったな。」 しかしその冷たい笑みに反して美しい男の不思議な声はまるで友人を相手にしているかのような優しい色を含んでいた。さらに彼の鋭い眼差しは先程伯爵の目を切り裂いた人間と同一人物とは思えない程に穏やかになっている。
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