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壁の方にいた青年がにこやかに笑いながら、その口調に似合わない軽やかな足取りで美しい男に歩み寄った。
「………。」
青年を見て眉間に皺を寄せた美しい男は、唐突に近寄って来た青年に持っていた首を放り投げた。
首の断面から血が飛び散る。投げられた首は放物線を描き、青年が反射的に前に出した両手に綺麗に収まる。
掌に感じたぬるりとした感触に青年は小首を傾げて手許に視線を向けた。
「いきなり…物を投げないで下…さい。一体何を………って首!? こんなもん投げんなよ!! あーしかも、なんか飛んできたと思ったら…こりゃあ。」
先程までの大人しげな雰囲気は何処に行ったのか、突然荒々しい口調になった青年は手と顔に付いた血に触って恨めしそうに美しい男に文句を垂れる。
「もう少し丁寧に扱ってやれよなぁ。死者への冒涜だぜホント。しかも回転加えて投げて来たから血が結構顔にかかっちまってんだけど。はぁ……気っ持ち悪ぃ…。死神様ーこれ絶対わざとでしょ。」
「不必要にお前が聞き取りづらい話し方をするからだ。」
「それだけのことで? そこそこ短気だよなぁ、死神様って。そんじゃあ、改めて言います。
……うっわ凄ぇ、流石死神様。もうあんたが神様で良いんじゃねぇの?」
「お前は……。」
青年のその歯に衣着せぬ物言いに美しい男が呆れたように溜め息を吐いた。
「いつもお前の軽口には絶句させられるな…。まったく、良いわけがないだろう。馬鹿なことを言うな。」
「分かってますよ。ただの冗談ですってば。ホンット真面目だよなぁ、死神様は。真に受けて返事すんなんてよ。相変わらずおっもしれぇ、ハハハハうおーっ!?」
美しい男をからかって楽しげに笑っていた青年が、音もなく背後に現れた大きな影に持ち上げられ野太い悲鳴をあげた。
着ているボロ衣の襟を掴まれ、母猫に運ばれる子猫のようになった青年が息も絶え絶えに呻く。
「く、首絞まっ…ぅ。」
「…少し黙れ。」
青年を軽々と片手で持ち上げた若い男が低く言った。その眦は吊り上がり明らかに怒っていることが分かる。
「…主人に対する態度じゃねぇ。」
「死神様はっ…そ…こらへん。仕事ん時いがっい…き、気にしな……っ。」
「…そう言う問題でもねぇ。」
青年の顔が赤を通り越して蒼白になったのを見て美しい男が若い男を止める。
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