残酷無情の死神

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「それぐらいにしろ。血の気が失せてきているぞ。」 「…しかし。」 「降ろしてやれ。」 「…承知。」 「あ…死ぬ……ってうおわっ!!」 美しい男の促しに、不満の表情で若い男が青年を無造作に落とした。 降ろすのではなく、落とした所に若い男の発散しようのない憤りが感じられる。 よろけながら地面に着地した青年は物凄い速さで美しい男の隣に回り込み、若い男から距離をとった。若い男に対して、青年が自分を助けてくれた美しい男を盾にしている構図だ。 「…っ! 貴様。何処までも舐めたことを、このっ…!」 「やめろ。そんなものを投げるな。」 「…ぐっ。」 目の鋭さを増した若い男が肩に担いだ伯爵を青年に投げつけようとしたが、美しい男の制止に上げていた腕を渋々下ろす。 それを見た青年が美しい男が現れる直前に見せたあの愉快気な笑みを浮かべる。時折咳をしながら首をさすり、美しい男の背から若い男を睨んだ。 「は、ざまあみろ。ゲホッ、この暴力野郎。」 「…黙れ、口の減らねぇ糞がき。」 「ゲホッ、あり得ねぇ。それが約一月の間、潜入調査っつう諜報活動をしていた人間への態度かよ。この俺が奴隷だぜ、奴隷。あいつの奴隷の扱い聞いただろ。飯抜きはホント堪えんだぜ…? 腹減りすぎて死ぬかと思った。ま、今も殺されかけたけどな。」 青年が腹を押さえてさすった。青年から力の抜けた雰囲気を感じ、美しい男が体を半回転させ青年と向かい合う。 「ああ、無理をさせた自覚はある。何か食事を用意させよう。ただし分かっているとは思うが食べられるのは後始末を終わらせてからだ。」 「いよっしゃ、久々だぜまともな飯! 言われなくても分かってますよ。それも俺の仕事ですからー。うーっ…んじゃ、やるか! 死神様、はい首。」 背伸びをして気合いを入れた青年は美しい男に持っていたアルドアの首を渡した。 その時点で青年の手とボロ衣はアルドアの血に点々と染まってしまっている。 青年は首を回してほぐすと、睨み合っていた若い男を視界から外し口元を引き締めた。 「あー、ずっとあのたどたどしい話し方してたから、こうやって普通に喋れんのが凄ぇ気持ち良く感じんなぁー。 さて、いるんだろ手前ぇら、来やがれ!」 青年の呼び掛けに、裏路地に唯一あった錆び付いた扉からガチャリと鍵を外す音がした。間もなく扉が開かれ中からぞろぞろと様々な格好をした者達が出てくる。
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