残酷無情の死神

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美女の持っていた石は血吸晶というものだ。しかし石とは名ばかりで、実際は命ある生物である。その正体はとある蜥蜴の卵。主な栄養源が血の中にある微量の魔力で、振動程度の衝撃を与えられると、生物の体内から抜け出た血を取り込む習性がある。 そして育ち切れば深紅の鱗を持つ蜥蜴にまで成長し、育て親に忠実な僕になる。 そのことから、血吸石は血を浴びることの多い職種の者達の必需品となっている。 綺麗になった裏路地を見回し、青年が落ち着きなく美しい男を振り返った。 「よし。これで完璧じゃねぇか、なぁ? 俺、先に帰っとくから! じゃ、早く死神様も帰って来いよーっ!」 誰かから渡された上着を羽織った青年が、美しい男の返事を聞くまでもなく走り去っていった。 ただ問題なのが食事が出来ることへの興奮から、美しい男に敬語を使うのを忘れていた事だ。 青年が敬語を話していた時は何も言わなかった若い男の肩が怒りに震える。 腕に力が入ったのか肩に担がれた伯爵が苦しそうな呻き声を出した。 若い男が獲物を見る肉食獣のような据わった目を青年が去っていった方向に向けた。 「…あのガキ締める。」 「落ち着け。」 美しい男が若い男の背中に手を当てて落ち着かせる。 その手に若い男は無理やり怒りを押さえ込んだのか、少し歪んだ表情のものの落ち着きを取り戻した。それを確認すると、美しい男は若い男をおいて青年と同じ方向に足を向けて歩き出した。 若い男が慌てて追いかける。 「…主、お待ちを。」 「今から別行動だ。お前は軍の裏受付に伯爵を預け次第そのまま屋敷に帰れ。」 「…いえ、用事が済むまで待っております。」 「帰れ、待たなくていい。私はアルドアの首を上に献上しに行くから帰りが遅くなる。屋敷に帰ってきてからは、予定していた時間よりもここに来るのが遅れた理由を具体的に纏めて報告しろ。時間は私の就寝前でも明日でもいい。好きにしろ。」 「………承知。明日の朝食前にはご報告します。」 若い男の渋々ながらも従順な返事を聞き、美しい男は杖を持った方の手で若い男の胸を軽く叩いた。 美しい男の側に付き添えないことに不満を感じている若い男への、美しい男なりの簡単な慰めだ。 「分かっているだろうが、この国では私の護衛は必要ない。気にせず行け。」 「…はい。」 その会話を最後に、裏路地を出た二人は無言で左右の道に分かれ進んでいった。
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