残酷無情の死神

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長く美しい男を無遠慮に見る人間は、美しい男の存在をよく理解していない奴だけなのだ。 そしてそれは新参者に他ならない。 やってきた新参者にここの環境と礼儀を教えることを仕事にしている人間がいるのだが、これはどうやら…。 「全く…一々これをしなければならないのは面倒だというのに。アイツが新入りの管理と躾を怠ってる証拠だな。」 くるりと美しい男が人差し指を回すと、その指先に光が集まりランプの形を象った。 美しい男の足下を照らす小さな銀色のランプ。元々はアルドアの首だったのだが、全然そんな事を感じさせない温かな灯りを放った。 その灯りに誘われたように何かしなやかな黒い影が背後から足に勢い良くぶつかってきた。その拍子に腕に引っ掛けていた杖が落ちる。 「…ん、なんだ。」 美しい男は首を捻り、歩みを止める。 ランプを宙に浮かせ、杖を拾おうとしゃがみ込んだ美しい男の手に白猫がすり寄った。白猫には首輪がついており、二つ折りにされた紙が挟まっている。 「その首輪…ルリーか。私を迎えに来たのか?」 「にゃー」 杖を拾うついでに鳴くルリーを片腕で抱き上げ、挟まった紙を抜き取る。 折られた紙を片手で開き、中に書かれた内容に目を通す。 「母上からか。」 手紙には、『美容に悪い夜更かしは止めなさい。寝不足は脳の働きを阻害します、そんな基本的なことも分からなくなったのですか。寄り道せず早く帰って来るとは思えないのでルリーを迎えに寄越します。』と書いてあった。 「……………。」 ちょうど新参者の躾を受け持つアイツの所に寄ろうと思っていた美しい男は、素早く踵を返し進路を切り換えた。 「仕事か…。」 眉を顰めた美しい男は疲れたように呟いた。 手紙の内容が本当にその通りの意味を表すとは、必ずしも限らないのだ。
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