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金属を通して手に伝わる柔らかな感触。体を退けその感触から遠ざかる。
抜いたその場から、金属を埋め込んでいた柔らかなものを包む青い布に鮮やかな赤い染みが出来た。
「っ…ぅあ!」
声になりきらない悲鳴を上げて青いドレスを着た女性が崩れ落ちる。
対象はこの女。
「サニール!? っ…貴様ぁ!」
恋人と思われる男性が倒れた女を抱きかかえ私を睨み付けてきた。
私は男性の叫びを無視して、女の脂と血に汚れた仕込杖の刀身をそれ用の布で拭く。
まだ何か叫んでいる男。だが対象以外の人間に興味は無い。また相手をする必要もない。自分の脅威にもならないこの男に思うことは、ただ煩いということだけだ。
「よくもっ…!! 死ね!!」
男が手近にあったガラスの花瓶を振りかざし襲いかかって来た。
静かにしてくれれば良いものを。面倒だ。
男の腕が頭上まで上がったのを確認し、自分の高い身長を生かして男の両手首を掴み容赦なく強く握り締める。その際布と仕込杖を落とさないように素早く男の手首との間に挟み込む。
「っぎ…!」
男は手に力を込められない程の痛みにガラスの花瓶を放した。
ガラスの花瓶は割れることなく鈍い音をたてて上等なカーペットに受け止められる。
すかさず男の腹に膝蹴りを決め、腹への衝撃に呼吸を止めて倒れようとする男のこめかみを杖の柄で殴る。
「…ぅ。」
白目を剥いて男が気絶し、血を失って顔が青白い女性の隣に倒れた。
「………。」
無言で二人を見下ろす。その時ふとガラスの花瓶が目に入った。
男の体を跨いで落ちた花瓶を拾い、元々あった棚の上になおす。
そして床に散乱していた花々を慰め程度に戻す。水は入れていないからすぐに枯れるだろうが。よく見れば、それなりの高さから落ちたのにも関わらず花瓶には皹一つ入っていない。
割れなかったか。毛の長いカーペットが衝撃を吸収したようだな。まぁ良い誤算だ。これなら割れたガラスの処理をしないでいい。
それにこの花瓶には価値がある。
部屋のソファーに腰掛け、処理班がやってくるのを待つ。これもまた上等なもので、深く沈み込むも心地良い弾力で体を支えてくれる。
座って直ぐに、この部屋内で自分以外の呼吸の気配が一つ減ったのを感じた。
「あぁ…死んだか。」
静かに息絶えた女を見やる。
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