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サニールというこの女は昨夜捕まえたオルバート伯爵の正妻だ。オルバート伯爵とは十歳も年の離れた若妻で、屋敷の外に相手を作り不倫をしていた。また、その相手が花瓶を私に叩き付けようとしたこの男。
私は杖をソファーの横に立てかけ、数時間前のことを思い出す。
ルリーから手紙を受け取った後。私は国王の息がかかっている店の奥の部屋で、普段は国王の近衛をしているという騎士にアルドアの首を献上しに行った。
勿論ランプのままではなく、首の形に戻してから。
屋敷に帰ってからは一族の当主であり上司でもある父親にアルドアの首の報告をして、無事王命は終了した。
だがその時点で、まだ母が私にやらせたい仕事が終わっていない。
一見子供への幾分個性的な説教の内容としか思えないが、母の手紙にあった言葉はそれぞれ別の言葉に置き換えることで、私にあることを伝えていた。
どういう基準でそう決めたのかは知らないが、『美容』は仕事、『寝不足』は不完全もしくは未完了の意味に変わる。
それを踏まえて手紙を見れば、
『仕事はまだ完了していません。さっさと帰って仕事をやり遂げなさい』
というように読むことが出来る。これが母の伝えたかった本当の内容だ。
終わっていないとはどういうことなのか。予想はついていたものの、そのことを詳しく知っていると思われる男が屋敷に帰っていなかった。
父の執務室を出て、詳しい話を聞くために母の部屋がある方に向かおうとした私は、その時ルリーを腕に抱いた母に背後から声をかけられた。
相変わらず腰まである艶やかな栗毛と儚げな顔立ちが目を引く美しい母親だ。
そんな母は報告が終わらせた私が出て来るのを扉の横で待ち伏せしていたようだ。
未完了だった部分の内容を聞けば予想していた通りの人物が関係していた。
『未完了とは、もしや…ムツキですか。』
『あら分かってるじゃないですか、シュゼク。』
ふわりと笑って母は頷いた。
『貴方の可愛い部下が人手が足りなくて困っているようですよ。あの子とあの子の部下を含めても数人しかいないでしょう?』
『ムツキに与えた任務は少数精鋭を誇るあの者達だけで遂行できるものの筈ですが。』
『問題が起きたそうですよ。』
『何が…。』
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