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嗚呼 醜い 醜い 醜い
感情を支配出来ない。
嗚呼 落ち着かねば
鳥が逃げる。魚が逃げる。熊さえも逃げる。神の力は強大なのだ。このままだと自然に影響を与えてしまうだろう。
嗚呼 早く 落ち着かねば
我は噴き出す感情を無理やり理性の全てを以て胸の奥に押し込めた。暴れる感情が少し静かになったことに安堵し息を吐く。そして未だ大人しくならない感情の動きに、さらに冷静になろうと無心になって目を閉じた。
「……ひくっ、あぅ。あう、あー。」
荒れ狂っていた心が落ち着きを取り戻して来た頃。赤子の泣き声ではなく下手な言葉のような、しかし言葉になっていないような声が聞こえた。
泣き止んだのだろうか。
また怖がらせないようゆっくりと目を開く。
すると、まだしゃくりを上げてはいるものの、殆ど泣き止んだ赤子が期待通りの双黒の瞳を涙で潤ませ、きょとりと自分の前に立つ我を見上げていた。
その時見えた赤子の黒い瞳の中には怯えや恐怖はなく、至極子供らしい好奇心の色があった。
我は怖がられていない。
そのことを理解した瞬間、我は無意識に鼻先を赤子に近づけていた。
もう止まれなかった。
思ってしまったのだ。この赤子を手に入れるのは今を除いてない、と。
早急に我は赤子の瞳を見つめ、囁くような声ではっきりと言葉を紡いだ。
赤子を見た時に抱いた不可解で暖かな気持ちを素直に、また、暗い感情をその裏に隠して。
『我はお前が愛おしい…。』
我はお前が欲しい…。
優しく切ない願いを込めて。
強い執着心を込めて。
『故に、神たる我はお前に加護を与えよう。傷付かぬように、孤独とならぬように、蔑まれることのないように、そして……。』
我の赤子を見る目は溢れんばかりの慈愛に満ちているだろう。また、その瞳はなんとも無邪気な狂喜に染まっていることだろう。
止まることなく、我は加護の言霊を発し続ける。
赤子を人から外れた存在にしてしまう。
それを十分に理解しておりながら。
孤独を疎んじるも、望まぬうちに空いてしまっていた空虚な穴を埋めるためならば、
『…死んでしまわぬように。』
我は禁忌を犯す、愚かな神にもなろう。
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