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「ムツキ。」
「…はい。」
「あの花瓶をこの男と一緒に裏受付に持って行け。あの花瓶、アロル夫人が話されていたものと特徴が一致する。恐らく盗品だろう。」
「…承知。」
「あと処理班はどのくらいで来る。」
「…傭兵達との交戦のためもう暫し遅れるかと。」
「分かった、行け。」
「…はい。」
私の命令の言葉に一礼し、ムツキは花瓶と男を回収して部屋の窓を開け放つと躊躇なく飛び降りた。
一瞬でムツキの姿が見えなくなる。
「………。」
ここは二階。大人の男四人分の高さがある。そんな所から人一人を担いで飛び降りるなど、普通の者なら足の骨を折ってもおかしくない行為だ。
高い身体能力を持つムツキだから出来ることだ。何の問題なく着地しているだろう。
遠目から予想通り無傷のムツキが走り去るのを見届けた私は、開けっ放しになった窓を閉める。
窓に手を掛けたまま耳を澄ませば、戦闘音と思しき音が複数聞こえた。その数からしてムツキが言っていた通りここに来るまでまだかかると推測する。
「これは…時間が余るな。」
鋭く重い音を奏でるそれらは傭兵達の体力が残っていることを物語っている。これではまだまだ傭兵は粘るだろう。後日じっくり調べようと思っていたが、今やるか。
この部屋に来てからずっと気になっていた美しい女性が描かれた絵画の前まで歩みを進める。絵に近くまで寄り、私は壁に飾られているそれがこの部屋の中で唯一安価なものであると改めて確信した。
指先を絵の額縁の底辺に添え、軽く持ち上げる。重みのない絵画は簡単に数センチ浮き上がった。だがそれ以上は力を込めても額縁は動かない。固定されているようだ。
指先に力を込め一気に壁と絵を引き離す。
カチと小さな音がした。音のした方に顔を向けると平面だった筈の壁に出っ張りが出来ている。
絵の裏を下から覗き込む。
「……やはりカラクリか。」
絵の裏には木の棒のようなものが付いていた。その棒の先は壁の中に埋もれている。
となれば壁の中にカラクリの大部分があるのだろう。作動スイッチ役割を果たすのがこの絵だったという訳だ。
明らかに安っぽいこの絵なら誰も興味を示さず、盗みもしないと考えてのカモフラージュなのか。
私からすればかえって気になる誤魔化し方だ。この部屋において唯一の異物に目がいかない筈がない。
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