残酷無情の死神

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指先を見ることさえままならない闇夜の中。 重苦しい空気を纏った十数人の男達が、とある開けた路地裏に集まっていた。男だけかと言えばそうでもなく、少ないながらも女性の姿も見られた。 互いの息遣いが微かに聞こえるだけの静かな空気を破るように、その集団の最年長と思われる壮年の男が静かに声を潜めて周りの者達に語りかける。 「皆よく集まってくれた。礼を言う。」 その男の声には一切の無駄な感情が籠もっておらず、淡々としていた。 「集まってもらった理由は言うまでもないが、一応確認のために言わせてもらう。」 壮年の男はすっ、と息継ぎして続けた。 「私達は、主であるオルバート伯爵の支配から逃れるため危険を承知で屋敷から抜け出し、自由に…そう自由になった。しかし、“権力ある貴族が何事も気づかず私達に逃げられたこと″…それ自体がまずおかしい。分かるな?」 男の意見に賛同するように、周りの者達が小さく頷く。得体の知れない不安に襲われたのか、数人の体は小刻みに震えていた。 此処にいる者は皆、過去に親に捨てられ売られたり、やむを得ない事情で自ら身落ちしたり、拉致されて無理やり自由を奪われたりと様々な暗い経緯を経て闇業者の商品…人権を無視される奴隷という身分にまで落とされた者達だ。 目を、口を、布で堅く封じられ。 首を、腕を、足を、それぞれに冷たく頑丈な鎖に繋がれた。 鞭で叩かれ、皮膚は血に滲み。 奴隷になり一日も経たないうちに、体には幾筋もの蚯蚓腫れが浮かび上がる。 呻き声一つあげるだけで、耳を塞ぎたくなるような罵倒を浴びせられた。 物心つく以前から家畜以下の扱いをされてきた者達は少なくはなく、それどころか余計な知恵がついていない為躾けやすいという理由で、そちらの場合の方が圧倒的に多い。どこの闇業者の所でも、奴隷の寝床であった牢の中では子供達の悲痛な泣き声と虚ろな目で溢れかえっていた。 奴隷はただの物であり、自分の所有物だとしか認識していないオルバート伯爵に買われた後も、無論その扱いに変化が訪れることはなかった。 むしろあまり商品が傷物になるのを良しとしなかった業者の方が、扱いが丁寧だったように思える。
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